すずな「あ」 広明「待ちぼうけだな」 すずな「そうでもないよ。ずっと色々眺めてたから」 広明「そりゃご苦労なこって」 すずな「やっぱり、旅行は面白いねえ。ただの待ち合わせでもさ、どんどん面白いものが目に入る」 広明「人の流れも川の流れも、土地が違えば変わって見えますか」 すずな「そうだねぇ。広明くんはそう思わない?」 広明「そういった感受性は千光年先に置いてきた」 すずな「つれないなぁ。ほら、この建物だってね、もう何百年も建ってる感じだよね」 広明「この街が出来たのは明治以降のはずだから、 何百年というのは現実的には絶対あり得ない数値」 すずな「ものの例えじゃない。広明くんだって千光年先とかいうくせに」 広明「現実と比喩をごっちゃにしない。 ま、味はあるわな。古い建物を壊さないで街の名物にするあたりは」 すずな「うんうん、風流とか粋とかいうやつだよね」 広明「経済効果と景観とがマッチした、非常に高度な政治的判断で素晴らしいと思います」 すずな「むぅぅ」 広明「冗談だよ。古い街を見るのはなかなか楽しいよ。この街を舞台にした映画があってさ……」 すずな「旅行がここだって決まったときに散々聞いたよ」 広明「そうだっけか」 すずな「んー……でも、もっかい聞きたいな」 広明「あっそう。大湊達も待ってるから、歩きながらだな」 すずな「うん。いこっか、広明くん」 「オルゴール館周辺」(小樽)
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